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最高裁判所第一小法廷 昭和30年(オ)344号 判決

主文

原判決を破棄する。

被上告人の本訴請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二、三審とも被上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士田坂戒三の上告理由一点について。

原判決は、所論摘示のごとく、上告人(控訴人、被告)は、昭和二五年六月一二日被上告人(被控訴人、原告)からその所有にかかる本件土地を代金一〇万円で買受ける契約をなし内金二万円を支払い残代金は同月末日所有権移転登記と引換に支払う旨約定したこと、上告人は、被上告人が同年一一月頃その代理人藤田欽二をして登記手続に必要な書類を作成呈示せしめ且つ残代金の支払と引換にその手続を履行すべき旨言語上の提供をしたにかかわらずこれが支払延期を申出でてその請求に応じなかつたため履行遅滞に在つたこと、竝びに、被上告人は翌昭和二六年八月二三日内容証明郵便を以て同年同月三一日限り残代金支払の催告をなし、次で同年九月一日更に内容証明郵便を以て売買契約解除の意思表示をなし、上告人はその頃右各書面を受領したことおよび、上告人が訴外田原儀助から融資を受ける約旨の下に同年八月三一日支払金(同証人の証言によれば、残代金八万円の外登記費用等を含めて金一〇万円)を携行した同人と共に双方の債務の履行場所である広島法務局に出頭したが被上告人が来会しなかつたため履行ができなかつた旨の事実を確定した上、上告人の右出頭の事実が債務の本旨に従つた履行の提供として有効であるためには、履行の日時が予め当事者間において確定されている場合を除き履行の提供に先だちその日時を予め相手方に通知すべきものと解されるところ本件においては被上告人の前記催告は、右八月三一日を履行日と推定した趣旨とは到底認め難く、また、上告人が被上告人に対し前記履行の提供の日時を通知しなかつたから、前記八月三一日広島法務局への出頭は有効な履行の提供ではなく、従つて、同年九月一日附の契約解除の意思表示は有効である旨判示したことは、所論のとおりである。

然しながら、右のように債権者が、債務者に対し、相当の期間をおいて、登記手続と引換に残代金支払義務の履行を求めたときは、債権者は債務者から改めて、履行の日時の通告があると否とに拘らず、少くとも右期間の最終日には、当該登記所に赴き、その執務時間中、債務者の出向するを待ち代金受領とともにその登記に協力すべき責あるものと解するを相当とするところ、原判決の事実によれば、上告人は、前示催告の最終日に当該登記所に出頭したにかかわらず被上告人は同日同所に出向しなかつたというのであるから、被上告人は債権者として上告人の履行に協力しなかつたものと認むるの外なく、従つて被上告人は、受領遅滞に陥るとともに、上告人は履行遅滞の責を免れたものといわざるを得ない。さすれば、前示催告に基づく解除を理由とする本訴請求は失当に帰するからこれを是認した原判決は、他の論旨について判断を与えるまでもなく、破棄を免れない。

よつて、民訴四〇八条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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